「、なんで泣いてんの?」
誰もいないと思ってたのに油断した。顔を上げると立っていたのは(栄口、勇人)なんていう失態。
「泣いてなんかない」我ながら幼稚だなあと思うけど、当事者にそんな話は出来ない。栄口はいつもみたいに苦笑して隣のブランコに腰掛けた(なんでそんなに、あなたは)。
「気にしなくていいじゃない、そんなの」ぶつぶつとぼやき続ける自分は相変わらず無様だと思うのだけれど、いかんせん本人が目の前にいるからこんな態度しかとれない(今日も素直になれなかったから後悔してたなんて)(言えるはずないでしょ)。栄口は僅かに体を前後に揺らして、ブランコを漕いだ。耳障りな錆びた音がする。
昼間は小さな子供で賑わう公園も、こんな暗くなってしまえば誰もいなくて。「気になるよ」その言葉に隣を見たのだけれど、栄口は俯いてて表情が読み取れない。気遣ってくれているんだろうけど、その優しさにさえ無性に腹が立つ。
「むかつくのよ、栄口」ついそう漏らした。栄口はこっちを向いて、なんだかとても辛そうな、それでいて少し怒っているような顔をした。「なんで?」至極真っ当なその答えに口ごもる。栄口の視線はとても真っ直ぐで、なんだか大人に諭される子供みたいな自分が恥ずかしい。
答えに戸惑っていると、栄口が少し身を乗り出して、「ねえ、なんで?」なんて訊いてきた。
何でそんな事訊くの(あなたはとても、残酷)そう言ってやりたい気持ちはやまやまだったけど、蛇に睨まれた蛙のように、いや実際栄口は蛇でもなんでもないんだけど、それでも私は何も言えなくなってしまった。幾ばくか時間が過ぎて、栄口は立ち上がった。そして、何か温かなぬくもりを感じた。
「なんでだよ。俺の何がいけないの? いつだってはそうだ。俺にだけ愛想笑いするし、目が合うだけで苦しそうな顔するし。どんだけ辛いか、解ってんの」ああ、私は栄口に抱きしめられてるのか。そんな事実にすら驚けない。私はそこまで感情が麻痺してしまっているのだろうか。
栄口の声は震えてて、泣きそうで、小さな子供みたいで(そんなの、決まってるじゃない)。「好きな奴にそんな態度取られて、嬉しい男がいると思ってる?」男の子特有の低い声で囁かれて肌が粟立った。あれ、でも今、(好きな奴って、)
「今のは告白と受け取って、良いんですか」そう言うと栄口は気がついたように飛びのいた。「うわ、ごめん」「何を今更」はあ、とかっこよく溜息をついてみたけれど、内心私だってかなりどきどきしてた。心臓が跳ね回る。ああ、止まれ心臓。あ、やっぱり嘘、止まらないで心臓。
「栄口、」
こんな時間が永遠に続けば
(すき)(……嘘)(ほんとだよ)(あー、って、もしかしてツンデレ?)(は、)